運営委員長挨拶

委員長第84期運営委員長 近藤 惠嗣 

 

 安全・安心な技術社会を目指すために機械技術者として何をすべきかという観点から各種の提言がなされています。特に、最近は、企業の社会的責任との関連から、企業内技術者の倫理が問われたり、機械技術者も社会や法律に無関心であってはならないということが言われたりするようになってきました。このような問題意識は、最近話題になった建築物の構造計算書の偽造事件などにより、ますます強くなっています。

 日本機械学会では、機械技術者が法律に対して積極的な関心を持ち、規格の制定や、裁判における技術的立証に技術者が関わる場合の考え方を整理することなどを目的として、1994年11月に「技術と社会部門」に所属する研究会として法工学研究会が設置されました。この研究会は、2003年3月まで活動を継続し、この間、この研究会のメンバーが中心となって、機械工学便覧のβ9編として、「法工学」の執筆、編集が行われ、2003年の1月に機械工学便覧のほかの分冊に先駆けて発行されました。これは、機械技術者が関わりを持つ法律の解説をベテランの執筆陣が分担して執筆したほか、解説されている法律の条文をCD-ROMで検索できるようにした点でも画期的な企画でした。

 法工学に関わる本学会の活動を振り返ってみますと、学会創立100周年記念行事の一環として、1997年7月に、「21世紀の技術と法律-健康と安全を守る-」という講演会が東京国際フォーラムで2日間にわたって開催されたことが特筆されます。交通事故や大規模火災等の調査、破壊力学と事故防止、航空機のパイロットのヒューマンエラー対策、リスク・マネジメント、企業内教育・人材開発、工業規格と検査、安全基準、事故調査など、広範なテーマについてそれぞれの専門家の講演が行われました。さらに、2000年1月号の日本機械学会誌の特集「技術から展望する21世紀とその社会」には、「安全・安心な技術社会を目指す法システムの構築-法工学の提唱-」が掲載され、法工学の目指すべき方向が簡潔に紹介されています。

 これらの経過を踏まえて、2003年4月に法工学部門が設置され、2006年3月まで3年間の活動を行いましたが、この活動を通じて、法工学の研究には部門の境界をこえた組織が必要であることがだんだんに明らかになってきました。法工学部門では、いろいろな工夫をして活動の活性化を図ってきましたが、2005年の春から秋にかけて半年を費やして行われた部門評価の結果、日本機械学会における法工学研究をさらに進めるためには、新たな組織に移行した方がよいとの結論が支部・部門活性化委員会、政策財務部会、理事会によって出されました。

 一方、理事会では、かねてから、分野横断的・新領域対応型研究組織の新設が模索されており、2005年10月に新組織に関する規定案が作成されました。そこで、この組織の第1号として法工学の研究組織を立ち上げるという方針が採択され、第83期の会長、副会長から当時の法工学部門長に直接の指示が出され、法工学部門が主導して各部門に法工学専門会議の設置に対する賛同を呼びかけ、最終的に、10部門(注)の賛同によって法工学専門会議の設置申請がなされ、2006年2月に理事会は法工学専門会議の設置を承認し、2006年4月から法工学専門会議として発足致しました。

 法工学専門会議の当面の活動は、法工学部門の活動を引き継いで、熊本大学における年次大会の諸企画を成功させることです。CSR、交通事故、知的財産、裁判における技術的立証に関して4つのワークショップが開かれるほか、法工学単独のオーガナイズド・セッションとして、「知的財産と研究開発」、「リサイクルと法」が行われ、産業・化学機械と安全部門とのジョイント・セッションとして、「産業・化学機械の安全と法」が行われます。さらに、2007年の関西大学における年次大会に向けて、新企画の立案を進めるほか、前述した機械工学便覧β9編「法工学」の定期的な改訂を可能とするシステムの構築も重要な課題であると考えています。

 法工学専門会議は、その設置承認にあたって、他学協会との連携を強く求められています。このことは、法工学の持つ学際的な性格からも当然のことであります。幸いに、法律の世界の側では、多くの大学に法科大学院が設置され、従来の法学教育とは違った社会の実際の要求に応えられる法学実務教育が目標とされています。法律家の参加を得て、講演会等を開催し、機械技術者に対して法学教育をすると同時に、法律家に対して、工学のものの考え方を伝えることのできる機会とすることが現実的な可能性を持ってきました。このような企画が実現した際には、是非とも、多数の方に参加して頂きたく存じます。  日本機械学会としても、分野横断的・新領域対応型研究組織は、新しい組織です。その第1号として、法工学専門会議設置されたことは、名誉なことであると同時に、初代運営委員長として、責任を痛感しています。日本機械学会における法工学が育っていけるかという意味でも、分野横断的・新領域対応型研究組織という構想が現在の部門制の下で機能するかどうかという意味でも、法工学専門会議が成功するか否かは、日本機械学会の今後の発展を占うものとさえ言えます。  微力ながら、法工学専門会議の発展に尽くしていきたいと考えておりますので、皆様にも多大なるご支援をお願い致します。


(注)賛同部門:バイオエンジニアリング、材料力学、機械材料・材料加工、動力エネルギーシステム、環境工学、設計工学・システム、ロボティクス・メカトロニクス、産業・化学機械と安全、交通・物流、技術と社会(部門コード順)


(福田・近藤法律事務所 弁護士(工博))